振動発生場所:コンサートホール
床上や、バルコニーのような張り出し部において、多人数のたてのり動作により揺れが非常に大きくなることがあります。たとえば、音楽イベントやスポーツ観戦などで、多くの人がリズムに合わせてジャンプをしたり、体を動かすと、同じ周期の力が何度も加わり、それが床の振動特性とぴったり合って共振現象を起こしてしまうことがあります。このように、人の動きがきっかけで床の揺れが過大に増幅すると、その床にいる人が安全面に不安を感じたり、落ち着かない空間になってしまうことがあります。
こうした「人の動作によって生じる振動」に対して、私たちは「測る」「分析する」「対策する」という3つのステップで対応しています。まずは、実際に人が動いている状態で、どこで、どの程度揺れているのかを詳細に測定し把握します。床構造の“揺れやすさ”の特徴(=固有振動数)もこの時に調べます。次に、測定したデータを分析し、どのような揺れが問題なのか、床構造の振動特性を明らかにします。このステップで、振動の原因や構造上の弱点を把握することができます。
そして最後に、問題のある場所に振動を抑制する装置(制振装置)を設置した場合の効果をシミュレーションにより確認し、実際に装置を設置します。特に効果的なのが、制振装置「TMD(チューンド・マス・ダンパー)」と言われる特定周波数の振動を抑制する制振装置で、これにより床との共振現象を生じにくくし、人の動作による振動増幅を低減させます。
振動発生場所:新幹線
鉄道や新幹線などの交通機関の近くに立地する建物では、車両通過時の振動が地面を伝わり建物全体を振動させることがあります。普段は気づかないような揺れでも、場合によっては床の構造的な特性と共振し、振動が大きく増幅されてしまうことがあります。このような現象が起きると、オフィスや会議室、住宅などの空間で「常に気になる」「集中しづらい」「気持ちが悪い」といった不快感につながることがあります。
こうした課題に対して、まず現地で振動の詳細な測定を行い、振動の発生場所やどのように建物に伝わっているかを正確に調べます。そのうえで、共振の原因となる周波数や構造上の弱点を分析し、振動を軽減するための具体的な対策を立てていきます。
提案する装置や技術は、建物の構造や設置スペースに応じて柔軟に対応できるよう工夫されています。例えば、天井裏などの狭い場所や床上の空いたスペースに合わせた制振装置「TMD(チューンド・マス・ダンパー)」を設計します。
こうした対策によって、振動の影響を抑えながら、働く人や暮らす人にとって快適な空間を実現しています。
振動発生場所:高層建物のゴンドラ
高層建物の外壁清掃に使用されるゴンドラは、突発的に吹く風により大きく揺れる場合があり、作業者の安全確保のための対策が必要となる場合があります。
このような風による揺れに対しては、制振装置「TMD(チューンド・マス・ダンパー)」を用いて対応します。ゴンドラの床下にTMDを設置することで、風による揺れの大きさを効果的に抑制することができます。
これにより、作業時の安全性を高めるとともに、建物への衝突リスクも低減することが可能となります。
振動発生場所:オフィスビル
オフィスビルでは、外気の影響をできるだけ抑えながら快適な室内環境を保つために、天井裏などに空調機が設置されているのが一般的です。こうした設備は、空調のために欠かせない存在ですが、運転中に生じる振動が上階に伝わり、上階の床やデスクなどに揺れを引き起こすことがあります。特に、空調機の振動周波数がデスクや床の振動特性と重なると、共振現象により揺れがさらに大きくなり、働く人にとって不快に感じられることもあります。
振動障害の調査では、振動測定を行うことで発生振動の確認、振動源及び伝搬経路の特定を行います。また、床やデスクの振動特性(固有振動数)も調べることで共振現象の有無の確認も行います。この調査結果を基に、振動源となる空調機に対し必要な防振性能を導き出し、従来のゴム材からより高性能なばね材の防振に交換したことで、床やデスクで発生していた振動を効果的に抑えることができました。
振動発生場所:病院
病院のように静けさを求められる場所では、設備から出るわずかな音や揺れが、想像以上に大きな影響を与えてしまうことがあります。例えば、電気設備室にある変圧器などの機器稼働時に発する小さな振動により下の階で音となって放射される現象(固体音)が発生する場合があります。
静寂さが病院業務には必要不可欠なため、こうした音は障害となり、病院の質にも関わってくる可能性があります。
病院のような静けさが求められる場所では、設備機器の種類や建物の構造、振動が伝わるルートをしっかりと把握した上で、その状況に合った適正な防振材を選ぶことがとても大切です。
不適切な防振材を使用すると振動・騒音障害が発生し、障害が起きてからの対策では非常に大きな労力を掛けなければなりません。そのため、事前に振動シミュレーションを行うことが重要となります。振動シミュレーションから求められる最適な防振材を提案することで、求められる振動・騒音環境の実現をサポートします。
このような工夫を重ねながら、病院で過ごすすべての人が安心できる空間づくりを、私たちの技術の力で支えています。
振動発生場所:
精密機器工場(クリーンルーム)
精密機器を設置する環境では、床のわずかな揺れ(振動)が思わぬ問題を引き起こすことがあります。
特に高層建物やクリーンルームのような特殊な場所では、建物の構造特性に起因した振動や人の歩行、工場内に設置された様々な機械設備・装置などの影響により微小な振動が発生します。
こうした振動影響により、微小な振動でも検査装置や測定機器の精度低下を招く原因となることがあります。
このような床振動の課題に対して、「アクティブ除振装置(じょしんそうち)」という高度な振動制御技術を提供しています。
この装置は、センサーで振動をリアルタイムに感知し、その揺れを“打ち消す”ような逆向きの力を常時発生させることで、振動を効率よく抑える仕組みになっています。まるで“振動のノイズキャンセリング”のように働き、精密機器が安定して動作する環境を整えることができます。
また、設置する機器や現場の条件に合わせて、装置をカスタマイズすることも可能です。そのため、半導体、研究開発など、さまざまな産業分野のニーズに柔軟に対応しています。
振動発生場所:リサイクル工場
工場やプラントでは、材料の搬送や仕分けのために、大型の搬送機械が使われています。
これらの機械は稼働時に大きな揺れをともなうことがあり、特に建物の上の階に設置されている場合、その振動が建物全体に伝わることがあります。振動の起こり方によっては、建物の床や柱の振動特性と影響し合い、「共振」という現象が起きることがあります。
こうした複雑な振動の問題に対して、機械そのものに対してだけではなく、建物の構造全体も含めた多角的な対策を行っています。
まずは、建物自体を「揺れにくい構造」にするために、柱などの一部に補強を加えます。
また、機械そのものにも注目し、すでに取り付けられている防振装置の性能が不足する場合、バネやダンパーの交換により最適な状態に調整し直し、振動をしっかりと遮断します。
さらにTMDと言われる特定周波数の振動を制御する装置を用いて建物全体の横揺れや床のたわみ振動を生じにくくし、機械の作動周波数との共振を防ぐ高度な対策技術を行うこともあります。
振動発生場所:
精密機器工場(電子顕微鏡)
電子顕微鏡などの微細な観察や検査を行う精密機器のまわりでは、周囲のわずかな振動や、見えない磁気的な影響(ノイズ)が、機器の性能に影響を与えてしまうことがあります。例えば、近くを走る電車や、建物の中にある電源設備、周囲の機械設備などの影響で、振動や磁場の変動(外乱磁場)が発生することがあります。
こうした課題に対して、例えば、わずかな揺れに反応して装置へ伝わる振動を低減する「アクティブ除振装置」や、外部からの磁場の変化を感知してそれを打ち消す「アクティブ磁場キャンセラー」といった高度な制御技術を用いた製品により、精密機器が安定して動作できる環境づくりをサポートしています。
これらの製品は、研究機関だけでなく、半導体、精密製造など多くの分野で導入されており、品質の安定や生産性の向上にも貢献しています。
振動発生場所:歩道橋
歩行者用のブリッジや建物どうしをつなぐ連絡通路などでは、歩行リズムと共振することで大きな揺れが発生することがあります。
このような揺れは、利用する人にとって「なんとなく揺れている感じがして落ち着かない」といった不快感を生むだけでなく、長い目で見ると構造の安全性に影響する可能性も出てきます。
こうした歩行振動との共振現象に対して、事前に振動シミュレーションを行い、歩行時の揺れを予測し、対策が必要であれば制振装置「TMD(チューンド・マス・ダンパー)」の設置を提案します。この装置は、特定周波数の振動を抑制するようなしくみになっており、通路を歩いている人が安心できるようにサポートします。
さらに、振動が特に大きい位置に重点的に装置を配置することで、無駄な対策を減らしつつ、最大限の効果を発揮しています。
振動発生場所:地盤
私たちの暮らす地球では、実はいつでもどこでも、小さな揺れ(振動)が発生しています。車の走行や工事作業、強い風、地殻の運動など、日常のさまざまな現象が地面にわずかな揺れを与えているのです。超高精密な観測や測定を行う研究施設では、非常にわずかな揺れでも観測データなどに影響を及ぼす場合があり、振動の影響を受けにくい地下深くに実験施設が設けられるようなケースもあります。
こうした微細な振動の課題に対して、地面や構造物に伝わる振動を把握するため、非常に高精度な振動測定器を用いることで、通常の振動計では測定できないような極微小レベルの振動を計測することができます。
研究施設や観測施設を建てる前には、候補地での長期間のデータ収集を行い、通常状態の振動環境や周囲の工場、交通振動などの影響を詳しく調べます。こうして集めたデータをもとに、その場所が施設の建設に適切な環境かどうかを、事前に検証します。
このように、私たちは施設を安心して稼働できる“揺れに強い土台”をつくるところからサポートしています。
精密な科学技術やその活動を支える環境を整えることは、未来の技術や研究を陰から支える、大切な仕事です。