特許機器株式会社 特許機器株式会社

新幹線による建物床振動対策

カテゴリ
  • 対策機器・設備別
    • 空調/衛生設備
    • 電気設備
    • 産業機械
    • 建物/構造物
    • 精密装置
    • 嫌振装置
    • 試験設備
  • 障害別
    • 振動
    • 騒音
    • 磁場
    • その他
  • 環境別
    • 生活環境
    • 交通
    • オフィスビル
    • 一般施設
    • 工場
    • 研究施設
  • 建物・業界別
    • ホテル/宿泊施設
    • 病院/福祉施設
    • オフィス/会議室
    • 店舗/商業ビル
    • 大学研究室/学校
    • マンション/住宅
    • プラント/工場
    • 社会インフラ
タグ
建物の隣に新幹線高架が位置し、車両通過時に床振動が発生
建物のすぐ横に新幹線高架があり、車両通過時に床振動が発生していた。通過速度、発生場所により異なる傾向が見られたが、制振装置を天井内に取付け、最適な調整を実施することで、改善された。

対策のポイント:発生周波数のバラツキに対応するためには工夫が必要

通常のパッシブ制振装置(TMD)は特定周波数成分(狭帯域)の振動低減を目的としたものであり、中間階の床やブリッジ(ロングスパン構造)、建物全体の水平方向特性など、これらの固有振動成分を制振対象とすることが多い。
新幹線の場合、走行に伴う加振周波数はおよそ6~10Hzの範囲に分布することが多いが(※地盤のN値、橋脚長、通過速度などによる)、走行場所の近傍では新幹線自身の加振力影響が大きく、建築物・部材の固有振動成分と完全一致せずとも、固有振動数近傍の周波数帯で増幅すると振動障害となることがある(⇒建築物の固有振動数への対処だけでは不十分なことがある)。
本件では新幹線走行による発生周波数のバラツキに対応するため、振動質量や減衰比の設定、TMD台数の複数化(制振周波数範囲の拡大)などの点を工夫し、対策を実施した。

調査内容・調査結果

■調査内容
1) 現状振動の確認
・新幹線通過時に振動が特に大きい場所、不快と感じる場所を確認し、上下、水平方向の振動加速度を計測した。 (※上下方向で障害を発生することが多いが、水平方向の場合もある)
・測定は1~2時間連続して行い、データ整理に必要な情報(通過時刻、上り下り種別、どう感じたかと言ったコメント)を詳細に記録した。

2) 建物側の振動性状把握
制振装置の効果を予測する上で、対象床の振動性状(有効質量、固有振動数、減衰比)が必要となる。構造図、床上積載状況の情報、及びハンマリングによるアクセレランスデータから有効質量を概算し、固有振動数と減衰比については、かかと加振による衝撃加振時のスペクトル、減衰波形から確認した。(※梁伏図より大梁、小梁位置を確認し、モード分離を念頭において加振点を決定)

■調査結果
新幹線通過時の床上卓越周波数と振動レベルについて表1にまとめた。これより、卓越周波数はおよそ7~9Hzの範囲に分布し、振動レベルは最大約80dB(10Gal)と有感障害となるレベルであることが確認できる。
また、床面をかかと加振した時のデータを図1に示す。上グラフは床の固有振動数を示し、下のグラフは加振後の自然減衰波形を示す。(測定点4FV-V1では固有振動数:8.5Hz、減衰比5.4%)

  • 表1 新幹線通過時の床上卓越周波数、振動レベル

  • 図1. 対象床の固有振動数(上)と減衰比(下) 
    ※かかと加振時のデータより

対策目標と制振装置設定

本件では、対象となった部屋が会議室用途で、もともとの振動が非常に大きいこともあり、目標値を“環境係数-4相当”とした。(環境係数:建物の用途に応じて定義されるランク区分。環境係数4(以下)は事務所用途として適切なレベル)

この目標を達成するため、制振装置のマス質量としては一般的な適正質量に対し3倍程度の安全を見た(周波数変動への対応も考慮)。減衰比設定については、条件が厳しい(振動が非常に大きい)部屋では10dBを超える大きな低減効果(1/3以下)が必要であったため、効果量を優先して減衰比を小さく4~5%としたが、それ以外の部屋については減衰比を10~20%と設定し、広い周波数帯に対応可能な仕様とした

また、床の固有振動数と加振周波数がずれている場合、必ずしも床の固有値で最大にならないため、制振装置の調整周波数は調査時のデータを元に決定した。

  • 図2:対策後の振動予測 (環境係数評価)

設置工事

制振装置を天井内に設置 

下記の注意点について十分に事前確認した上で、使用用途の少ない下階天井内の構造梁にブラケットを溶接し、
装置を取り付けた。(図3)

1)天井内部に取り付けスペースが確保できるか、障害物がある場合は移設可能か。
2)装置の搬入経路の確認、寸法、重量を確保できるか。分割搬入が必要か。
3)一体搬入が装置費用面では好ましいが、既設建物への取り付けとなると色々と制約が多く、工事計画の是非が工事全体の鍵となるため、実施に際し工事業者と綿密な下見打合せが必要。

(参考) 制振装置の床置き例 (図4)
天井内に取り付けが出来ない、用途変更の関係から制振装置の移動が求められる場合など、移動可能な床置き型の制振装置を導入することもある。
多くは生産ラインの近傍に置く場合や、OA床下に設置する場合である。
メリットとしては移設ができる、工事が比較的簡単である。
デメリットとしては、製作費が高い、小型になりやすく効果量が低い点が挙げられる。

  • 図3:対象階の下階天井内の構造梁に設置された制振装置

  • 図4:(参考) 床置き型の制振装置

対策結果とまとめ:現地での最適調整により、広い周波数帯で十分な効果を得ることができた

もともと振動が大きく10Galを超えていた4F会議室は、搬入経路の制限から分割での搬入を行うこととなった。新幹線通過時に発生する振動周波数は、7Hz~9Hzと広い範囲で分布していた。
基本計画としては、TMDの質量はできるだけ大きく、減衰比も大きくすることで、対応可能な周波数帯を広げることとした。但し、4F会議室については振動が非常に大きかったこともあり、10dB以上の低減効果が必要であったため、通過車両の速度によっては効果が得られないリスクもあったが、効果量を優先し減衰比を5%前後とした。

制振装置設置後、新幹線の通過状態を確認した。4F会議室では、8Hz卓越時は予想を超え13dBの効果(1/4~1/5)が得られた。しかし、減衰比を小さく設定したことによるデメリットとして、効果がある周波数範囲が狭くなり、9Hz付近卓越時には効果が得られない状況であった。これより分割納入した2台の内1台を8.6Hzに再調整し、最終的に目標の振動環境を達成することができた。
4F部分は、工事搬入の都合上、500kgタイプを2台設置とした為、装置費用面では高くなってしまったが、2台を異なる周波数に調整したことで、より広い周波数帯で十分な効果を得ることができた。

PAGETOP
PAGE TOP